職種を越えて「自分たちでつくる」を当たり前に――アプリボットのAI活用と文化づくり

 株式会社アプリボットでは、AI活用を個人の工夫にとどめず、プロジェクトを越えて学び合い、成果や挑戦を次の取り組みにつなげるための仕組みづくりを進めています。本インタビューでは、ゲーム開発にたずさわりながら全社のAI推進を担う杉浦に、AI活用を支える制度やサイバーエージェントグループとの横断連携、知見を共有し、挑戦しやすい環境をつくるための取り組みについて話を聞きました。

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<プロフィール>

杉浦 優介(Yusuke Sugiura)

2018年に株式会社サイバーエージェントへ新卒入社。アプリボットに配属後、「NieR Re[in]carnation(© 2021-2023 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.Developed by Applibot,Inc.)(※)」の立ち上げにたずさわり、アウトゲームやシステム領域などを担当。その後、クライアントリーダーを務めたのち、現在は新規開発中プロジェクトのリードエンジニアを担うほか、クライアントエンジニア領域の責任者と全社のAI推進責任者を務める。X:@siguma_sig

※開発:アプリボット、企画・制作:スクウェア・エニックスによるスマートフォン用ゲームアプリ。現在はサービス終了。


開発現場に立ちながら、会社全体のAI活用を推進する


ーーー現在の仕事内容と、AI推進における役割について教えてください。

 現在は、新規開発中プロジェクトで主にアウトゲーム部分の実装を担当している傍ら、クライアントエンジニア領域の責任者と会社全体のAI推進責任者を務めています。クライアントエンジニア領域では、採用や組織の技術戦略の策定などに取り組んでおり、AI推進では会社としてどのようなツールを使うべきかを検討し、その活用方法について議論したうえで社内への展開を進めています。


ーーー日々の開発やAI活用を進めるうえで、どのようなことを大切にしていますか。

 現在のアプリボットでは、エンジニア領域においてAIが当たり前に使われる環境が整ってきており、AIへの関心度が非常に高く、世の中に良いツールや活用方法があれば積極的に取り入れていこうという風土が醸成されつつあります。ただAIを「使えばいい」というわけではなく、重要なのは事業成果につなげることです。最近では、各プロジェクトで生まれた成果について議論する機会も増えており、それらをプロダクトや事業の価値向上にどう結び付けられるかを意識して取り組んでいます。

 また、日々のゲーム開発では、クライアントエンジニアが手がけたものがお客様の目に直接触れるため、自身の担当領域にとどまらず、企画やデザインなどについても積極的に意見や提案を行っています。ただし、提案をする際は一方的に自分の考えを押し付けるのではなく、相手がその判断に至った背景や意図を理解したうえで議論することを大切にしています。AI活用の推進においても同じで、ツールや使い方を一方的に展開するのではなく、各プロジェクトや職種が抱える課題を理解し、事業や開発の現場に合った形で活用方法を提案することを意識しています。

現場の挑戦を、組織の知見へ


ーーー個々や各プロジェクトの実践を組織全体へ広げるにあたり、どのような課題がありましたか。また、その解決に向けて取り組んだことを教えてください。

 以前からAI活用を広げるための取り組みを進めていましたが、大きく二つの課題がありました。一つは、AI活用を推進しても、その取り組みがどの程度成果につながったのかを客観的に把握しづらいこと。もう一つは、プロジェクトごとにAI活用の浸透度や推進状況にばらつきがあり、全社としての現状を把握できていなかったことです。

 そこで、会社全体のエンジニアのAI活用状況を可視化するため、「生成AI活用レベル」という独自の指標を策定しました。この指標では、全エンジニアのAI活用度を1〜5の5段階で評価し、各プロジェクトや個人の活用状況を定量的に把握できるようにしています。

 あわせて「プロジェクトAI代表制度」をつくり、各プロジェクトからAI活用の推進に意欲のあるメンバーを1名ずつ選出し、毎月の定例会議で「生成AI活用レベル」のデータをもとに、各プロジェクトで実施した施策や得られた結果や課題を共有しています。良い事例があれば他のプロジェクトへ横展開することで全社に浸透していき、現在は全プロジェクトでコーディングエージェントが日常的に活用される文化を醸成することができました。

 また、サイバーエージェントグループには、グループ各社や横断組織で取り組まれたAI活用の事例が数多く集まります。成果につながった成功事例のみならず、期待した効果が得られなかった事例や、運用を通じて見えてきた課題も共有されるため、さまざまな試行錯誤から得られた知見を知ることができます。そこで得た情報をアプリボットへ持ち帰り、AI推進を担うメンバーや各プロジェクトの代表者へ共有しています。アプリボットだけで一から検証するのではなく、グループ内に蓄積された事例を判断材料にしながら、それぞれのプロジェクトに合った施策へ効率的に還元できることは、大きな強みだと感じています。


ーーーAI活用を組織へ広げる過程で、周囲からはどんな反応がありましたか。また、取り組みを支える社内の環境についても教えてください。

 取り組みをはじめる前は、AI活用に抵抗感を示す人も少なくないのではないかと思っていましたが、実際には多くのメンバーが前向きに協力してくれました。特に各プロジェクトの代表者は、通常の業務と並行して一定の時間を使う取り組みにもかかわらず、施策を自分ごととして捉え、プロジェクト内でのAI活用を積極的に推進してくれました。

 さらに、アプリボットではAIによって業務効率化した事例を社内で共有する「AI活用表彰(通称:RRR賞)」を設けています。「Risk」「Return」「Reduce」の3つの観点から、職種を問わず取り組みを募り、選ばれた事例を社員へ紹介しています。成果だけでなく挑戦した過程やそこから得られた知見も組織へ共有することで、次に挑戦するメンバーが新たな取り組みに踏み出しやすい環境づくりにつながると考えています。

 また、代表の浮田をはじめとする役員陣の理解と支援もあり、AIを活用しやすい環境づくりを会社全体で進めることができました。AI関連の取り組みには投資の側面もあるため、新しいツールの導入や検証には迅速な意思決定が欠かせません。役員陣の後押しがあったことで、新しいツールや技術をスピード感を持って試し、その効果を検証できる環境を整えることができました。

職種を越えて生まれる変化と、これから目指す組織の姿


ーーー新しい取り組みによって、組織全体にはどのような変化が生まれていますか。

 現在は、エンジニアのみならず、プランナーを含む企画職にもAI活用を広げています。エンジニアとは業務内容が異なることに加え企画職は職域が幅広いため、それぞれの業務に合った活用方法を見つける難しさがあります。ただ、多くのメンバーが前向きに協力してくれていてAI活用に関する講座や勉強会にも積極的に参加しています。最近では、自分の業務のなかにある定型作業をAIでツール化し自動化する事例も増えてきました。これまでエンジニアへ相談する必要があった効率化を、自分たちで試し、実現できるようになっています。

 また、これまでAIを使っていなかったメンバーが社内勉強会をきっかけにAIを使い始め、個別に質問をくれる機会も増えました。実際の業務にAIを取り入れていることが伝わり、うれしく感じています。他職種のメンバーも、AIを活用してコーディングを行い、自分たちの業務に合ったツールを開発する事例も生まれています。AIによって一人ひとりが実現できることの幅が広がる一方で、会社として安心・安全に活用できる環境づくりにも、これまで以上に取り組む必要があると考えています。


ーーー開発現場ではどのような変化がありましたか。そのうえで、今後アプリボットで取り組みたいことを、技術面と組織面から教えてください。

 大きな変化は、繰り返し発生する作業をAIに任せることで、よりクリエイティブな部分に時間を使えるようになったことです。また、短時間でモックを作成できるようになったことで、仕様検討の段階から実際に触りながら議論を進められるようになりました。アイデアを素早く形にして試行錯誤できるようになったことは、開発スピードだけでなく、プロダクト全体の品質向上にもつながっていると感じています。

 技術面では、まだ十分に取り組めていないQA領域でのAI活用を進め、より安定したプロダクトをお客様へ届けられる体制を整えていきたいと考えています 。また、レベルデザイン領域でもAIを活用し、開発効率だけでなく、ゲーム体験そのものの品質向上につなげていきたいです。 組織面では、AI活用が特別な取り組みではなく、日常業務の一部として根付く組織を目指しています。そのために、各プロジェクトで得られた知見や事例を継続的に共有し、現場が自分たちに合った活用方法を見つけられる環境を整えていきたいです。



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